馬籠~落合~中津川2010.9.20

10:00AM前に馬籠茶屋を出て馬籠宿を散策。
馬籠脇本陣史料館を見学し、喫茶店併設の土産物屋・大黒屋へ寄ってみる。
『夜明け前』では“伏見屋”として登場する重要な家。
ここはかつて酒造業で財を成した家で、小説にも描写のある杉玉が今でもぶら下がっていた。

大黒屋
大黒屋

その後女房子供と別行動をとって一人藤村記念館へ。
ここは島崎藤村の生家(つまり馬籠宿本陣)跡でもある。
本陣はあらかた焼失しており、記念館の建物は敷地の脇のほうに控えめに配置されている。
従って母屋のあったあたりは何もない空間となっているのだが、思いの外狭く感じた。
建物の建ってない土地は狭く感じるものなのだろうか。

本陣母屋跡
本陣母屋跡

裏庭からは昨日訪れた永昌寺が見える。
青山半蔵はここからあの寺を見ていたのだ。

永昌寺
永昌寺

展示品の中では7歳で亡くなった藤村の娘の写真が眼に焼き付いている。
亡くなる直前の撮影らしいが、ベッドに横たわって賢そうな顔だけをこちらに向けた少女。
その表情は既に全てを諦めたかのように虚ろである。
父・藤村はどんな気持ちでこの写真を撮ったのだろう。
一人の父親として胸が痛む。

藤村記念館
藤村記念館

記念館を出て女房子供の待つ土産物屋へと向かう。
母親と片手をつないだ1歳7ヶ月の娘が、僕を見つけて飛び跳ねて喜んでいる。

馬籠宿は木曽の山から美濃の平野に下りて行く斜面に位置する。
宿場全体が坂になっているので、家並みの間を下ってゆく街道の彼方に山々がそびえるという、他の宿場ではなかなか拝めないような景観が楽しめる。

馬籠宿
馬籠宿

たび重なる大火で旧い建物はほとんど残っていないのだが、宿内の家屋の外観は日本風に統一されていて往時を充分に偲ぶことができる。
思わず寄ってみたくなるいい感じの喫茶店もたくさんある。

桝形
桝形

11:30AM、宿場の出口あたりのスーパーで昼食のお握りを買い、娘をmacpacポッサムに背負って今日の旅をスタートする。

馬籠宿を出た旧中山道
馬籠宿を出た旧中山道

いきなり田園風景が広がる。
左手彼方には恵那山。
宿場に溢れていた観光客も消え失せてロケーションが一変した旧道を気分良く歩く。

恵那山
恵那山

20分程歩くと、それまでちらちらとのぞいていた美濃方面の視界が一気に開ける。
素晴らしい眺めだ。
ここには正岡子規の句碑があり、すぐ脇にはあずまやが建ち、ご丁寧にごみ箱まである。
昼食には絶好のポイントだ。
ところが娘はポッサムで熟睡している。
仕方なく休憩だけして再出発した。

美濃が見える
美濃が見える

緩やかなアップダウンを繰り返してかつて立場茶屋があった新茶屋に達する。
現在では旧い家屋の民宿が一軒あって、そこの子供がおばあちゃんの畑仕事を手伝っている。
妻籠を出てからここまで、宿場の外にもこういった民宿が何軒もあった。
ネット上の情報には存在しなかった宿だ。
どんな人が泊まるのだろう。

新茶屋
新茶屋

ここには一里塚があり、『夜明け前』に製作の場面があった芭蕉の句碑もある。
そしてその作者藤村の揮毫による「是より北 木曽路」の碑もある。
つまりここで木曽路ともお別れだ。
最後にもう一度言わせてくれ、
「木曽路は素晴らしい」

一里塚跡
新茶屋

美濃に入るとすぐに石畳の下り坂となる。
新茶屋のあたりが十曲峠の最高地点だったらしい。
峠といってもここまでほとんど上りの意識がなかったのだが、下りは結構急なので京都側から来る人にはかなりきつい峠だろう。

坂を下り始める
坂を下り始める
落合の石畳
落合の石畳

鬱蒼とした樹木に覆われて昼なお薄暗い石畳をジグザグに下り、舗装道路と合流して落合川を渡ると落合宿に入る。
静かな田舎の住宅街だ。

落合宿
落合宿

現在公開中の映画『十三人の刺客』で話題になっているクライマックスのど派手な乱闘シーンの舞台はここ落合らしいが、そのギャップが笑いを誘うほどの静けさだ。
本陣跡のちょっと先の公園で昼食。

本陣
本陣

旧中山道は国道19号線と2度交差して、坂を登る。
この坂はまるで等高線を垂直に突っ切るような急勾配だ。
なぜこのような道の付け方をしたのだろう。

猛烈な上り坂
猛烈な上り坂

息を切らせて登りきると稲穂と防風林が風に揺れる高原のような場所だ。
ここは立場跡でもある。

坂を上り切った風景
坂を上り切った風景
与坂立場跡
与坂立場跡

そこからは延々と坂を下りに下って中津川宿に至る。

中津川に向かう道
中津川に向かう道

往時には東美濃の実質的な玄関口として栄えた中津川も今では静かな静かな商店街だ。
商店街とはいっても実際に営業している店舗はぽつりぽつりという感じで、3連休の最終日だというのに人通りがまるでない。
ガランとした通りに響くBGMがうらぶれ感を一層あおる。

中津川宿に入る
中津川宿に入る

『夜明け前』では馬籠の主人公が、人や情報が集まる中津川の友人達を羨むことになっているが、現在では完全に逆転している。
鉄道や道路という交通網の整備された地方都市がさびれ、その交通網から外れた山村が観光地として栄えている。
“開発”とは一体何だったのか。
妻籠・馬籠の活況と中津川の惨状の残酷なまでのコントラストはそのことを我々に考えさせずにはおかない。

中津川宿
中津川宿

四ツ目川橋を渡ったところで今回の旅を終了とし、この商店街では例外的に新しい店舗の“中山道茶屋 縹”でコーヒーを飲み、これまた例外的にお客の入っている栗きんとんの老舗“すや”でお土産を買って中津川駅へ。
5:01PMの快速で名古屋まで行き、名古屋で6:30PMの新幹線のぞみ44号に乗り換えて東京へ。

中山道茶屋 縹
中山道茶屋 縹

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