(奥湯本入口バス停)~箱根2012.4.20
東京駅8:36AM発の東海道線を小田原で箱根登山鉄道に乗り換え、さらに終点箱根湯本で弁当を買ってからバスに乗り込んで前回のゴール地点奥湯本入口で降りる。
入念な準備運動をして歩き始めたのが11:00AM。
今日は東海道最大の難所、箱根越えに挑む。
3歳の娘は女房の両親に車で箱根まで連れて来てもらって、元箱根のホテルで合流して一泊する予定。
従って今回歩くメンバーは僕と女房と女房の兄貴の3人だ。
実を言うと箱根越えは2006年の8月にも経験している。
その時はここより4kmほど先の畑宿から歩き始めた。
まずはその畑宿に向かって歩道のないアスファルト県道を歩く。
この先の厳しい道のりを思ってか3人とも無口だ。
沿道の山には山桜が咲いて、緑の斜面をランダムに彩っている。
30分ほどで須雲川自然探勝歩道との分岐点に達する。
渓流に沿って気分良く歩けそうな遊歩道だが、旧東海道にできるだけ忠実に歩くためにそのまま県道を進む。
すぐに、余りにも急坂ゆえに婦人が落馬して死んだことからその名が付いたという「女転し坂」の辺りに差し掛かったが、そこは現在宗教団体の私有地になっており、旧道の名残らしき物をガードレール越しに探したものの、これという物は見つけられなかった。
さらに5分ほどで道路右側に割石坂の入口が現れる。
今日最初の石畳だ。
ここの石畳には江戸時代の物、明治・大正期に小学校の通学路として一部補修した物、そして近年神奈川県が整備した物の3種類が混在している。
正直どれがどれだか判別できなかった。
一旦県道に合流してすぐに、今度は左手に旧道の入口があった。
しかしこの道は急激に下っている。
峠に向かって上っている時にそんなことがあるのだろうか?
これは入口ではなく出口なのではないだろうか?
だとしたらどこかで入口を見落としたのだろうか?
疑問と不安を抱えながら石畳の急坂を下ってみた。
坂は大沢川の流れる谷底まで一気に下り、橋を渡ると上ってゆく。
これが大澤坂で、江戸時代の石畳が最もよく残っている所だそうだ。
ゴツゴツとした石畳の坂を上り切って県道に合流するとそこは見覚えのある集落だった。
畑宿だ!
道は間違っていなかった。
畑宿に旧い町並みは残っていないがそれなりに雰囲気のある集落だ。
箱根名物の寄木細工の店が点在し、幕末の日本に通商を迫った米国初代駐日公使タウンゼント・ハリスにゆかりの本陣跡もある。
もしここに妻籠のような旧い家屋が建ち並んでいたら、箱根という地の利もあるので大変な観光スポットになっていたかも知れないのに惜しいことだ。
しかし、ほとんどの旧家屋を焼失しながらも近年になって旧い町並みを再建して成功した馬籠の例もある。
今からでもチャレンジしてみたら面白いと思うのだが。
時刻は正午過ぎ、弁当を食べるのにちょうど良さそうなあずまやがあったので行ってみたが、近くの公衆トイレの臭いが漂っていたので休憩だけしてまた歩き始めた。
すぐに畑宿一里塚がある。
明治以降、削られたりして往時の形状を失っていたのを発掘調査と文献調査を基に復元整備したものだ。
何はともあれ、横浜の品濃一里塚以来の左右揃った一里塚を通過して石畳を上り始めた。
石畳が終わると県道をしばらく歩く。
すると左手に県道の法面を突っ切るような急勾配の階段が現れる。
これが樫木坂で、往時は石畳だったのだろうが現在ではこのような階段になっている。
確かに石畳よりは手すり付きの階段の方が安全なのだろうが、この階段は脚にこたえる。
上り終えてしばらく一同動けなかった。
県道からまた石畳の坂に入ると見晴し茶屋への階段が伸びていたが、とてもそれを上る余力はなくスルーしてすぐそこにあるベンチで弁当を食べた。
奇しくもここは6年前にも弁当を食べた場所だった。
さて今日の天気予報は各社一致して「曇り~夕方から夜にかけて小雨」だったが昼前からポツポツと降り始め、弁当を食べて歩きを再開した1:00PM過ぎには雨粒が大きくなってきた。
6年前も同じような天気だった。
一度気持ちよく晴れた箱根路を歩いてみたいものだ。
苔を雨が濡らして滑りやすい石畳を延々と歩く。
石畳の石は形が揃っておらずデコボコで、しかもそれが濡れているのだからまことに歩きにくい。
足元から目が離せない。
江戸城の見事な石垣を見れば当時石を平らにする技術は充分にあったはずだが、ここでそれを用いなかったのはなぜだろう。
左手は笹で覆われてはいるが、良く見るとかなりの急崖になっていて意外と危険かも知れない。
県道を10分ほど歩いて1:45PM、甘酒茶屋に到着。
江戸期にはこのあたりに4軒の甘酒茶屋があり、そのうちの1軒が現在でも営業している。
中に入ると囲炉裏の煙がたちこめている。
そして現代のお店の感覚からすれば随分と暗い。
しかしそれが往時の雰囲気を良く再現している。
天井の梁には山駕籠が吊るしてある。
ここで黒ごまときな粉をまぶした餅と甘酒をいただく。
餅は香ばしく、甘酒は素朴な甘みで向島百花園の甘酒よりは口に合った。
ゆっくり休憩して2:25PMに再出発。
この甘酒茶屋の裏手を畑宿自然探勝歩道が通っているのだが、ここも旧東海道をトレースするために県道の方を歩く。
10分ほどで左手にまた石畳が現れる。
今日最後の上り坂だ。
10分ほどで最高地点に到達。
あとは下りだが、下りは下りでスリップが怖い。
脚への負担も大きい。
そろそろと10分ほど下って権現坂に差しかかった。
ここは箱根路で最も景色の良い下り坂だったらしいが、現在では視界を樹木に覆い尽くされてまるで眺望がきかない。
それでも枝の間から芦ノ湖らしい水面が見えてきた。
ゴールは近い。
斜面をえぐり取って通された車道を歩道橋で渡ると杉並木が始まる。
迫力ある杉並木はさっき歩道橋で渡った車道に合流するので歩道のない道を歩くと箱根神社の大きな鳥居と元箱根港の海賊船乗り場に突き当たった。
つまり観光地としての箱根だ。
時に3:15PM。
本当は2kmほど先の関所跡まで行きたかったのだが、女房の両親との待ち合わせ時間が迫っていたのでここを今日のゴールとして、今宵の宿ホテルむさしやに向かった。
しかし峠越えの後に温泉が待っているってのはいいもんだ!